こんにちは、長井達也です。
今回は「鍼灸師さん必見!コワーキングスペースを併設したサブスク鍼灸院のつくり方!」についてです。
日本は高齢化社会を迎え、これからも需要が見込める職種として「鍼灸師」の国家資格を取得する方が増えていますよね。
しかし、実際のところ、高齢者の多くは現代医療を選び、鍼灸院の受療率は年間4%~6%前後と低調です。
鍼灸でも保険治療は可能ですが、「医師による適切な治療手段がない場合」に限られるため、多くの鍼灸師は社会保険制度の外で活動しています。
したがって、独立開業を考えている鍼灸師さんは「他院と差別化する方法は何か?」や「実費治療で安定的に売り上げる方法は?」と悩んでいるのではないでしょうか?
確かに、「美容鍼灸」などの実費治療に取り組む鍼灸師もいますよね。
ただし、ホットペッパーから「あはき柔整プラン」が登場し、今後はチェーン店がスケールメリットを生かす事で価格競争が生まれ、個人院は苦境に陥る可能性もあります。
そこで今回、私が提案するのが、「コワーキングを併設したサブスク鍼灸院」です。
一見「鍼灸院」と「コワーキング」の組み合わせは、何の脈絡もない様に思われるかもしれませんが、他のコワーキング運営者から見れば大きな脅威です。
それは、多くのコワーキングスペースが「ワークスペース」として提供されている中、鍼灸師が健康とウェルネスを取り入れた「コワーキングスペース」を運営すれば差別化に繋がるからです。
さらに、ビジネスモデルのキモとなるのが、スペースの定額料金(サブスクリプション)に、ドリンク飲み放題と同様に鍼灸受け放題(1日1回など)を含めてしまうという事です。
こうすれば、コワーキング利用者も鍼灸の施術代金をスペース利用料(勘定科目でいうと、支払い手数料や賃借料)として経費処理しやすくなりますよね。
また、鍼灸院としてもコワーキングスペースを併設することで、他院と競合する事なく特定の顧客層を引き寄せ、独自のコミュニティを形成できます。
これは少数の顧客と結びつきの強い関係性(ファンベース)を構築し、それだけで生活基盤が作れる可能性が考えられます。
それでは具体的に、鍼灸師さんがコワーキング併設院を運営するための方法について解説していきます。
コワーキングとは?
まず初めに、コワーキングについて解説します。
コワーキング(Coworking)の「Co」は「共同」という意味で、異なる職種や組織の人々が共通の作業スペースで働きながら、アイデアや経験を共有し、協力し合うワークスタイルを指します。
世界的に有名な「WeWork」や東急が運営している「ビジネスエアサポート」をコワーキングと認識している方も多い様ですが、実際にはシェアオフィスやワークスペースという業態になります。
なお、日本で最初のコワーキングスペースは、2010年に神戸で誕生した「カフーツ」とされており、コワーキングの5大価値やコワーキング曼荼羅などを提案しています。
コワーキングの5大価値
・Accessibility(つながり)
・Openness (シェア)
・Collaboration (コラボ)
・Community (コミュニティ)
・Sustainability (継続性)
次に、コワーキングスペースの機能としては、フリーデスク、高速インターネットなど基本的なオフィス設備と、フリードリンク・共有キッチンなどが提供されます。
ソフト面では、ワークショップ、セミナー、イベントなども定期的に開催され、メンバー同士の交流を促進するイベントも重要とされています。
主な利用者としては、フリーランス(個人事業主)のプログラマー、WEBデザイナー、ライターといった方々になります。
最後に料金体系ですが、1ヶ月単位の料金制度もありますし、ドロップイン(時間貸)を用意しているコワーキング施設もあります。
既存コワーキングの課題は?
コワーキングスペース(Coworking)の多くは、不動産業の一環として運営されており、1席あたりの収益性をベースに料金設定がされているサブリース(転貸)ビジネスです。
路面店舗のスターバックスが流行るなら、賃料の安い上層階で同じようにコーヒーが飲める「ワークスペース」でも収益化出来るだろうという発想です。
もちろん、ワークスペースで黙々と仕事をしたいというニーズはありますが、問題はどこのワークスペースも金太郎飴状態で乱立していることです。
実際、地方でも都市部を真似てサブリース(家賃を支払って第三者に転貸する)で収益を出そうとしますが、労働人口が不足しているため簡単には成立しないのが現状です。
つまり、コワーキングに大切なのは、「ハコ」ではなく「人」です。
異なる職種や組織の人々が同じ空間で協力し合う「人々」とそこから生まれる「コミュニティ」、そしてそれらを束ねるコワーキングマネージャーが必要不可欠です。
コワーキング併設鍼灸院のビジネスモデル
コワーキング併設鍼灸院は、3つの要素で構成されるビジネスモデルです。
ビジネスモデル
1,健診機能
2,医療機関との連携
3,サブスクによる節税効果
鍼灸師さんの中には、労働集約型である鍼灸師が年収UPを行うため、”美容鍼”などで施術単価を上げるべきという意見が散見されます。
しかし中長期的視点に立って考えると、施術単価を上げていく事が果たして正解なのか正直疑問です。(そもそも美容鍼と医療美容ダーマペンとの兼ね合いもあります)
むしろ高齢化社会に突入し内需が低迷していく日本では”施術単価”ではなく、ボトルネックである”労働集約型”の働き方自体を変えていく事が大切になると思います。
そのための1案として、コワーキング併設鍼灸院のビジネスモデルの魅力について説明していきます。
ヘルスリテラシーを埋める舌診・脈診・健診
総務省統計局の発表によれば、2022年の日本の就業者数は平均6723万人で、前年比で10万人増加し、2年連続で増加していることが分かりました。
一方、コワーキングスペースの主要利用者であるフリーランサー(個人事業主)は、就業者総数の約10%を占めており、副業や複業を含めると1500万人に達しています。
ここで懸念されるのは、フリーランサーや一人カンパニーの「ヘルスリテラシー」です。
通常、企業の従業員は年に1回、企業負担で健康診断を受ける機会があると思いますが、フリーランサーの場合、健康診断を受診する割合は会社員の約50%程度だと言われています。
さらに、フリーランサーや一人カンパニーの代表者は雇用保険に加入できないため、病気にかかった場合、すぐに失業状態に陥ってしまう可能性があります。
フリーランサーや一人カンパニーの場合、このような制度の恩恵は受けられません。
そこで、鍼灸師がコワーキングスペースで、脈診や舌診などを健康診断の代替手段として提供すれば、利用者にとって大きな安心になるはずです。
医療機関との連携
鍼灸師が保険治療を行うには、医学的観点からは、はり師やきゅう師の施術を受けることを医師が認め同意した場合にのみ治療が可能です。
そのため、鍼灸における保険治療は現代医学からの「ギフト」であり、現代医学と中医学との間で上下関係が生まれる要因にもなっています。
しかし、本来であれば、予防医学や代替医療として、中医学が果たす役割は多いはずです。
そこで、現代医学と中医学の立場を「上下」ではなく「パートナー」として位置づけることで、興味深い展開が可能だと思います。
具体的には、鍼灸師が日常的にコワーキングスペースで利用者に対して、脈診や舌診などの方法を使って健康診断の代替手段として提供します。
その際、異常を感じた場合は医師を紹介するというアプローチが考えられます。
この場合、一般的な鍼灸院を営む鍼灸師であれば、自身の患者さんが西洋医学の医師に奪われることを心配するかもしれません。
しかし、サブスクの料金体系で運営しているコワーキング併設鍼灸院の鍼灸師ならどうでしょうか?
逆に、医療機関に自身のコワーキング利用者を多く紹介することで、「健康診断」としての機能をアピールする機会が生まれるでしょう。
医師との連携が取れれば、訪問鍼灸など新しいアプローチを簡単に展開でき、鍼灸の予防医学としての地位を確立する絶好の機会になるはずです。
サブスクによる節税効果
コワーキングの主な利用者は、プログラマー、WEBデザイナー、ライターといった、長時間椅子に座って作業される方が多いという特徴があります。
長時間椅子に座って作業すれば当然、肩こり、腰痛など、鍼灸師の得意とする疾患が生まれやすい場所でもあります。
こういったコワーキングスペースで、1ヶ月のスペース利用料に、施術代金も含めて、サブスクリプション費用としてて「賃借料」として一括徴収します。
つまり、サブスク料金に鍼灸治療も含めてしまう事で、利用者は施術代金も賃借料として経費処理できる(※1)というのが、このビジネスモデル最大のポイントです。
この方式なら、女性の利用者に対しては、美容鍼も受けられるコワーキングスペースとして人気を集めることができますよね。
また、月額費用を3万円から5万円程度に設定することで、効果的な勧誘が可能であり、顧客を10人から30人獲得するだけで損益分岐点を簡単に突破することができるはずです。
コワーキング併設鍼灸院の開業手順
個人でコワーキング併設鍼灸院を開設する場合、一連の流れは下記の通りです。
コワーキング併設鍼灸院の開業手順
・開業届提出
・物件選定
・内装プラン策定
・保健所に事前相談
・内装工事完了
・保健所に施術所開設届出書を提出
さらに、ここからは個々の手続きについて詳しく説明します。
開業届の提出
個人でコワーキング併設鍼灸院の開業準備を始めたら、税務署に開業届の提出が必要です。
開業届とは個人で新たにお金を生む仕事を始めたら、開業から1カ月以内に税務署に提出が必要な書類の事です。
つまり個人で鍼灸院を開業したら、自動的に個人事業主となり税務署に開業届の提出が必要となります。
なお開業届の作成については、簡単な質問に答えるだけで無料で開業届が手軽に作れる、freee開業と言うサービスがおすすめです。
物件選定
コワーキング併設鍼灸院を開業するために、物件選定が必要です。
なお日本の賃貸物件は、「住居」「店舗」「事務所」「店舗・事務所」「倉庫」などに分類されており、コワーキング併設鍼灸院するには「店舗または店舗事務所」から選択する必要があります。
これは、事務所ビルと店舗ビルでは消防法や建築基準法上の制限が異なるためです。
次に、賃貸借契約書には必ず、賃貸人(貸主)から物件を借りた賃借人(借主)が、第三者に又貸しする事を転貸(転貸借)する行為を禁止する旨の記載があります。
この点を突かれて、契約審査に落ちる場合もあるので、コワーキングスペースの利用者とは、賃貸借契約(=転貸)ではなく、あくまで一時使用の賃貸借になる事を説明する必要があります。
内装プラン策定
個人でコワーキング併設鍼灸院を開業するために、保健所への施術所開設届出書が必要になるのですが、この届出審査をクリアするのに重要なのが構造設備基準です。
構造設備基準とは、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律施行規則第25条および柔道整復師法施行規則第18条により規定されている、鍼灸院の開業に求められる設備スペックです。
この構造設備基準を満たさないと、保健所の検査で許可が出ず鍼灸院を開業する事が出来ません。
つまり、物件を選定する際にも構造設備基準を満たす事が出来るかを判断する必要があります。
構造設備基準の抜粋
- 6.6㎡以上の専用の施術室を有すること。
- 3.3㎡以上の待合室を有すること。
- 施術室は室面積の1/7以上に相当する部分を外気に開放できること。
- 施術室と待合室の区画は、固定壁で上下左右完全に仕切られていること
なお鍼灸併設のコワーキングを運営するには、構造設備基準の区画とは別に、ワークスペースを設置する必要があります。
待合部分をワークスペースと兼ねるのは審査がおりない可能性があります。
保健所に事前相談・届け出提出
個人でコワーキング併設鍼灸院を開業する場合、管轄する保健所(名称は都道府県により保険局や、医療衛生センター、衛生監視所など様々)に、施術所開設届出書 の提出を行います。
ポイント
- 事前相談
通常は保健所に電話にて予約後、図面(平面図)を持参の上、相談に行きます。 - 開設
内装も出来上がり必要な備品類も設置が終わりいつでも施術が開始出来る状態です。 - 開設届の提出
鍼灸院の開設から10日以内に保健所へ施術所開設届出書を提出する必要があります。 - 保健所職員による検査
現地に伺い、届出内容に相違がないか確認します。
コワーキング併設鍼灸院の運営方法
コワーキングを併設したサブスク鍼灸院をひとりで運営する場合、スペースの運営とあわせて、施術も行う必要があるため省力化・省人化が重要になりますよね。
そこで、入退室管理・継続課金に対する決済機能・集客方法について説明します。
コワーキングの入退室管理
利用者の利便性を考えると、毎日営業が必要になるため無人管理でも運営できる体制が重要です。
そこで、スマートロックの導入が必須です。
スマートロックとは、物理的な鍵ではなく、スマホアプリやNFC(近距離無線通信)などを駆使してドアの解錠を行う事ができるツールです。
オススメとしては、SwitchBotやセサミ4という商品が有名です。※国産ではQRIOなどもありますが20ユーザーが上限となります。
コワーキングの継続課金(サブスク)方法
コワーキングを併設したサブスク鍼灸院の料金体型を継続課金(サブスク)とする場合、毎月自動的に請求、決済できる仕組みがあれば便利ですよね。
そこでオススメするのは、店頭のクレジットカード決済も可能な、Squareです。
Squareを利用すれば、WEB上から最初に設定すれば、毎月の請求書の自動発行や、支払い前日のリマインダーなどの便利な機能により、手間のかかる請求業務を大幅に削減できます。
また、最大のメリットは、決済手数料以外に毎月の固定利用料などが一切かからず、サブスク課金を導入できる点です。
コワーキングの集客方法
コワーキングを併設したサブスク鍼灸院の認知度アップを図るには、ポータルサイトへの登録というのも1つの方法です。
サービス名称 | ドロップイン | team-place |
運営母体 | NTTコミュニケーションズ株式会社 | 株式会社AnyWhere |
受取額 | 利用料の70%(30%が手数料) | 利用時間× TeamPlaceが設定した単価 |
その他、Jelly(ジェリー)の開催を行うというのも1つの方法です。Jellyとは、コワーキングスペース内で開催するイベントを指します。
例えば、確定申告時期にみんなで集まり会計ソフトに入力作業を行うといった、カジュアルなイベントを多く開催するのがポイントです。
まとめ
以上、”鍼灸師さん必見!コワーキングスペースを併設したサブスク鍼灸院のつくり方!”はいかがでしたか?
少子高齢化、不景気、などの問題とは一線を画し、コワーキングというツールを利用して、独自のファンベースマーケティングを行うというのが今回のテーマでした。
これから鍼灸業界は、チェーン展開が加速していくと思われますし、面積あたりの収益性を考えれば個人院には分が悪いと思います。
そこで、周りに流されることなくコアなファンを集める基盤をつくる事が重要になるのではないでしょうか。
また、最近のコワーキングのトレンドとして、飲食スペース(カウンターやキッチン設備)が重要とされています。
例えば、薬膳ランチを提供するなど、鍼灸と親和性の高いコワーキングをつくっていくことも出来ると思います。
最後に、
居室(利用者の自宅、老人ホームなど住まいとしている場所)に限られます。
そのため、既存のコワーキングスペースとの協業は難しいと判断し今回は触れていません。※保健所により判断が異なる場合もあるので、確認が必要です。