こんにちは、ナガイ タツヤです。
鍼灸師の皆さん、最近「DX戦略」という言葉を耳にしたことは有りませんか?
DX戦略とは、お店や企業が"ITを活用する事で顧客に新しい価値を提供する取組み”を言います。
鍼灸師さんも、これからの鍼灸院経営を勝ち抜くためにはDX戦略が必要不可欠になります。
なぜなら鍼灸師は人口減少に反比例して増加しており将来、過当競争が生まれていくからです。
そこで今回、鍼灸院の経営になぜDX戦略が必要になるのか、
- 鍼灸師の課題と将来性
- 鍼灸師として生き残るために必要なDX戦略
この2点を交えて具体的に解説していきたいと思います。
DX戦略とは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略とは、企業(お店)が通信技術やインターネット上のサービスを活用し、新製品やサービス・ビジネスモデルを生み出す事で顧客に対しネットとリアルの両面から価値を提供し、業界内の競争を優位に進める革新的な戦略の事を言います。
鍼灸師の課題と将来性
鍼灸師の平均年収は350万円前後と
そこで労働集約型である鍼灸師が年収UPを行うためには、施術単価を上げるべきという意見が散見されます。
しかし中長期的視点に立って考えると、施術単価を上げていく事が果たして正解なのか正直疑問です。
むしろ高齢化社会に突入し内需が低迷していく日本では”施術単価”ではなく、ボトルネックである”労働集約型”の働き方自体を変えていく事が鍼灸師として大切になるのではないでしょうか。
そうすることで患者の費用負担も削減でき、代替医療の一端を担う可能性も出てくると思います。
現在の市場環境
鍼灸の受療率は5%前後で推移していますが、この数字の受取り方には注意が必要です。
出典:鍼灸柔整新聞 あはきの2020年度受療率
まず鍼灸の受療率は幅広い世代の母集団から推計されるため、顧客層に偏りがあれば実態から乖離が生まれる事になります。
現に鍼灸師の多くは国民皆保険制度の外、つまり実費治療で活躍されているため顧客は自ずと可処分所得が高い傾向になります。
また保険治療が不得意とする内容(不妊や美容鍼灸など)を多く扱う鍼灸院も多く、これも顧客の偏りを生みます。
以上により、鍼灸の受療率には偏りが反映されておらず、実際の市場規模は拡大傾向にある可能性が考えられます。
ただし、その一方で日本の人口は2008 年をピークに減少傾向にあるのに、鍼灸師は反比例して増加している現状があります。
人口比率に対し鍼灸師が増えているのに受療率が伸びていない事から判断できるのは、鍼灸の裾野が広がっていない事を意味します。
わかりやすく言うとカウンターのお寿司屋さんばかり増えて、庶民が楽しめる回転寿司のお店が誕生していない状態です。
つまり”労働集約型”である個人商店の鍼灸院が、いかに多いかという現れでもあります。
将来の市場環境
今後、高齢化社会に伴い公的医療保険制度が逼迫したり、円安により輸入医薬品等の原価が高騰する事で自己負担割合が上昇する可能性があります。
その結果、実費治療と保険治療の価格差が縮まり、鍼灸が代替医療となりうるポテンシャルがあります。
しかし現在多くの鍼灸院では治療方針を言語化し患者に説明する、インフォームドコンセントを省略して治療を実施していますよね。
これでは代替医療には成り得ません。
患者が代替医療に求めるのは熟練の経験値ではなく、安心感と結果になります。
今後、代替医療として認知してもらうためには医療機器の民生用化が進み、医学的管理に基づいた数値や状態表現を医師と共通言語で話せる事、また患者に対してエビデンスを示して治療を行う事が医療を提供する側として必要になります。
例えば気胸などの事故を防ぐためにも、超音波(エコー)などを活用する事は患者さんの安心感を引き出すために大切ですよね。
そこで触診など感覚や経験値で判断するだけでなく、明確なエビデンス(言語化・画像化・数値化)を用いる事が代替医療を担うにも、現代的な鍼灸として大切になるのではないでしょうか。
※医療類似行為に該当する様な行為や、医療機器を活用して症状の診断を鍼灸師が行う事はできないため、医師との連携も大切です。
鍼灸院・鍼灸師の今後
鍼灸院の今後ですが現在のマーケットボリュームだと、ひとり鍼灸院のほうが効率が良いかもしれません。
しかし代替医療として鍼灸が認知されたなら、所属鍼灸師が3~5名で20坪前後の鍼灸院という組合わせが主流になるのではないでしょうか。
その方が固定経費の割合を下げれるため効率的な鍼灸院運営が可能になります。
次に鍼灸師の今後ですが、施術技術のナレッジ化・均一化が加速することが予測されます。
これは昔は徒弟制度などにより、技術継承が緩やかに行われてきましたが、現在ではオンラインセミナーや情報商材など様々な方法で情報伝達のスピードが上がってきていますよね。
今後はさらに、インターネットの世界では回線速度や端末の性能が上ることで、よりリッチコンテンツ化すると言われています。
リッチコンテンツとは、静止したテキストや画像ではなく動画やインタラクティブなものになるため、情報の伝播が加速していく事になります。
つまり、リッチコンテンツ化の恩恵を鍼灸師受けて、技術の均一化・安全性の促進も進む事になります。
ただし、その過程で下記の問題も同時に生まれてきます。
伝播の加速に伴う弊害
・既存技術にプラスαしたものが新技術として扱われる。
・先行者利益が以前より少なくなる。
・ブームに乗っかることで価格競争に巻き込まれる。
・独自性が薄れた鍼灸院が増える。
・ブームの寿命が短くなる。
そこでブームに乗っかるのではなく代替医療として医療費削減に繋がる動き(裾野を広げる動き)が出来るかが、鍼灸業界全体のKPIになると思います。
また鍼灸師のナレッジ化・均一化により代替医療の安全性担保に繋がる事が、鍼灸経営のキモになるのではないでしょうか。
鍼灸師として勝ち抜くために必要なDX戦略
現在の労働集約型”の働き方から変えていく、そして庶民のための医療を提供する、この両方を継ぐものがこれからの鍼灸における「DX戦略」の1つになるはずです。
詳しく
労働集約型とは、人間の労働力に頼る割合が多い業種を指します。
では具体的にDX戦略(ITを活用する事で”新しい価値”を顧客に提供する)を進めて行くにはどうするべきか。
それにはまず、鍼を打つ回数を減らす事です。
鍼灸師が鍼を刺さずに稼げるのか?と思うかもしれません。
しかし開業権はあるのに、広告規制などで雁字搦めにされている現状を打破するには”鍼灸””に囚われた働き方を改める必要があると思います。
また鍼灸師ではなく、中医師だと考えれば視野が広がるのではないでしょうか。
外科医の先生が毎日手術しないように、鍼灸は中医師が行う仕事のひとつに過ぎませんよね。
その上で、労働集約型を脱却するためには、鍼灸院のコンビニ化(多様な取り組み)を推し進めて、分業化する事がDX戦略をおこなう上で優位になると思います。
鍼灸院のコンビニ化とは、文字通り営業時間の見直しや、各種取次業務(病院の案内など)も含めた話です。
本当の意味で受療率を上げるには、現在のように受け身な姿勢で開業権の範囲の業務を行っている限り限界があります。
鍼を打つ回数を減らして空いたリソースを鍼灸院と飲食店、鍼灸院とトレーニングジムなど、鍼灸の裾野を広げるためには柔軟な発想と柔軟な利益構造を作ることが大切ではないでしょうか。
ポイント
DX戦略と組み合わせる事で、患者ひとりあたりの刺鍼回数を減らす
予防医学×DX戦略
日本は医療保険制度が優秀であるため、がん保険など罹患後の備えには投資しますが予防医学には無頓着だと言われています。
一方、海外に目を向けると自己負担率が高いため未然に予防するという概念が生まれています。
そこで今後は日本でも自己負担率の上昇などに伴い、予防医学の重要性が見直されるタイミングが来るはずです。
ここで西洋医学のセカンドオピニオンである東洋医学の出番となります。
まず高額な検査装置などなくても、舌診や脈診などから体の不調を調べることができますよね。
その際に重要なのは経験値ではなく統計学的なエビデンス、つまりAIの登場です。
舌の状態を写真撮影することで判断できるなどできれば、鍼灸師の個人差なく集合の叡智としての検査ができるようになります。
結果、AIを活用した舌診や脈診、そして問診など東洋医学のアプローチから低価格な健康診断サービスを提供する事が可能になります。
例えばカーブスのようなサーキットトレーニングと組み合わせたサービスを提供できれば、刺鍼回数も大幅に減らす事が可能です。
さらに鍼灸院が病院に紹介状を書き、逆に病院から金銭的なフィーをもらうというのも今後起こり得るのではないでしょうか。
現に一部のPCR検査所などでは顧客の送客をおこなっていたりします。
つまり鍼灸のDX化とは、キャッシュポイントを増やすという事になるのではないでしょうか。
リッチコンテンツ×DX戦略
インターネットの世界では回線速度や端末の性能が上ることで、よりリッチコンテンツ化すると先に説明いたしました。
では鍼灸において、具体的にどういう事が起こるのか近未来を想像してみたいと思います。
まずこれまでの静止したテキストや画像ではなく、動画やインタラクティブな双方向性なものに情報が置き換わっていきます。
ということは、メニュー表がいつまでも”テキスト”のままである必要性はないはずです。
例えば自分の施術工程・風景(手元だけでも)の動画に価格表を盛り込み、それをメニュー表としても良いわけです。
また世の中がリッチコンテンツ化することで、集客方法も大きく変化します。
例えば鍼灸院の集客方法として、これまでエキテン・しんきゅうコンパス・Instagramなどの口コミ拡散が重要視されてきましたよね。
これは消費者が「自分の希望する鍼灸院と出会いたい」という想いで口コミから内容を想像し、それが来店動機に繋がったからです。
しかし、これからは想像ではなく具体的に動画でプロセスと結果を見せるという事が今まで以上に大切になります。
すでにTik TokやInstagramのポータルで動画配信に取り組まれている鍼灸院さんも多いと思いますが、これらが当り前になっていきます。
まずは恥ずかしがらず、とにかく早く取組むという事が大切です。
AI・ロボットとの共存とDX戦略
DX戦略を行う上で、AIやロボットなどをライバル視するのではなく取り込んでしまう事が大切です。
病院経営を見て思うのは分業化、省力化・省人化の流れができていますよね。
鍼灸院においても、これらが出来ない限り代替医療には成りえません。
またAIやロボットに自分のしごとを奪われないためには、むしろAIやロボットを積極的に活用し使う側に回る事が大切です。
そして自分のリソースを新しいことにむけて、さらなるAI・ロボットの活用方法を模索していく事です。
これこそが「労働集約型」から脱却し、庶民のための医療を提供する一助になります。
まとめ
以上、鍼灸師の将来性を高める!鍼灸業界で勝ち抜くためのDX戦略 2022はいかがでしたか?
レッドオーシャン化する鍼灸院で勝ち残るには、新しい価値観を持ち込みブルーオーシャンで戦うという選択肢を模索する必要があるのではないでしょうか。
そのためには鍼灸院が多様化し介護に特化したり、予防医学に特化したり、はたまた薬膳料理など飲食業とコラボする事が大切になります。
そこにDX戦略(ITを活用する事で”新しい価値”を顧客に提供する)という概念を持ち込み、新しい集客で、新しい顧客層に、新しい施術メニューを提供する事が鍼灸院の発展に寄与すると思います。
ポイント
・鍼灸師の人口比率は上昇しており、今後過当競争が予想される。
・鍼灸の受療率は伸びておらず、ターゲット層がニッチになっている。
・東洋医学(鍼灸)は西洋医学の代替医療になるポテンシャルがあるが引き出せていない。
・患者の裾野を広げる取組みとして代替医療を担う必要がある。
・代替医療を担うにはDX戦略を織り交ぜたビジネスモデル転換が必要